『AI時代に生き残る企業、淘汰される企業』
加谷珪一
AI(人工知能)、シェアリング・エコノミー、IOT、フィンテック。これら4つのテクノロジーは、今後の社会を大きく変える可能性を秘めており、産業革命以来のインパクトがもたらされるだろう。AIは人工知能の略である。シェアリング・エコノミーとは、インターネットを介して、個人間や企業間で余剰なモノやサービスのやり取りをすることである。IOTは「モノのインターネット」という意味で、モノにインターネットを組み込み、相互通信を可能にすることで、遠隔操作や自動認識、自動制御を容易に行う仕組みのことだ。フィンテックはITを活用した金融サービスを指す。
4つのテクノロジーは、一部では具体的に普及しはじめているものの、あくまでキーワードとして消費されているだけであり、現実社会でどう役に立つのか具体的にイメージできなかった。AIの導入で仕事のほとんどが無くなってしまうといった、冗談のような話として聞いていた人が多い。2016年あたりからこの状況が大きく変わりはじめている。スマホに料金決済機能を持たせて、クレジットカード代わりにするサービスはフィンテックの代表例だ。シェアリング・エコノミーの分野では車の配車サービスを担うUberやフリーマーケットのアプリを運営しているメリカリなど、目立つ企業がいくつか出てきている。
具体的な製品やサービスの輪郭が見えはじめ、4つのテクノロジーが現実の企業社会に入り込む姿が具体的にイメージできるようになってきた。私たちは、これら4つのテクノロジーに対する認識をあらため、ビジネスや投資における現実的なテーマとして受け止めねばならない。AIというと、高度な知性を持った人型ロボットが、人に代わって黙々と仕事をするイメージを持つ人も多いが、それはSF映画の観すぎである。人工知能の現場への導入は、もっと地味に、そして表からは見えにくい形で進んでくる。
営業活動の現場では、これまでも営業管理システムといったITシステムが使われていた。ここにAIが導入されると、どうすれば営業成績が上がるのか、システムが教えてくれるようになる。一見すると、従来と同様、情報システムを使って営業管理をしているようにしか見えず、大きな変化がないようにも思えてしまう。だが実際には、同じ仕事をこなすために必要な社員の数は圧倒的に少なくなり、営業マンに求められるスキルも変化していく。
タクシーの初乗り運賃の値下げが、実は、こうした新しい技術への布石だということも、多くの人は気付いていない。IOTの分野は、4つのテクノロジーの中ではもっとも進みが早く、重電業界では、初期の開発競争はすでに終盤に差しかかっている。同じ産業機器を製造しているメーカーであっても、IOTに対応したところと、そうでないところとでは、収益構造は大きく変わる。かつて飛行機が空を飛んだ時には、誰もがそのインパクトに驚愕したはずである。
だが、新しいテクノロジーは水面下で進化し、表面にはなかなか姿を現さない。4つのテクノロジーは、見えないところで、着々と企業の姿を変えている。一つの産業(業界)が興る時には、関連するいくつもの産業が淘汰される。自動運転が普及すれば、タクシー業界は淘汰されるかもしれない。トラック業界、バス業界も様変わりする。また、衝突しない自動運転になれば、修理工場はなくなり、自動車保険業界も淘汰される。車を所有するという概念まで変わってくるので、自動車産業がGoogleやアップルの下請けになってしまうかもしれない。日本では、東京でしか乗ることができないUberも他の多くの国では乗ることができる。外国に行ったとき、Googlemapの地図上で、目的地を検索(一部日本語で検索もできる)しそこを目的地とすると、そのすぐ横にUberを呼べるアプリが連動して出てくる。目的地までの時間や料金が表示され、決済はあらかじめ登録したクレジットカードで支払うので、チップも現金のやりとりもない。
アルコール、除菌、マスクの仲間の経営塾より