『望みはかなうきっとよくなる』

筑波大学名誉教授、村上和雄

ヒトを含め、いま、この地球上に生きるすべての生物は、生命の誕生以来、幾多の過酷な試練を切り抜けて生き残ってきたものの子孫です。何よりも自分の子孫を後世に残し、自分の種の生存を最優先することは生き抜くために必要であり、ある程度、利己的であることは生きる術として遺伝子に刻まれたものだと思います。

その一方で、群れて暮らす生きものたちは、集団として生き残るための術として、他者を思いやる利他的な遺伝子を獲得したのだと思います。利他的であることと、利己的であることは一見、相反しているように見えますが、本来、表裏一体のものであり、種の保存と個体の生存に必要な本能行動としてヒトに定着したのだと思います。

その結果、ヒトは、利己的な生き方と利他的な生きかたを併せ持ち、そのふたつのバランスをとりながら、いまを生きているのです。私たちは人から感謝されたときに、より強く幸せを感じます。これは、利他のほうが利己よりも進化的に新しく、ヒトにおいて著しく発達したこころの働きが、より強く作用しているからだと考えられています。そうであるならば、人間は利他性を強く意識することで、より利他的な生き方へと進化することが可能だと思われます。

2011年に起きた東日本大震災は、まさに人々の意識を変え、その後に展開された数々の支援は、我欲が目立つ現在の世の中に人間の利他性がまだまだ健在であることを示しました。人間が持つ高度な社会性の基盤が利他性にあるならば、私たちは意識的に利他的な遺伝子をオンにして、日常的に助け合うこころを発揮していくべきです。それが、よりよい社会や地球を創っていくことにつながるはずです。

アルコール、除菌、マスクの仲間の勉強塾より