「芸術の変な効用」

 建畠哲(多摩美術大学学長)

効用とは経済面だけではない。芸術に親しむ事で人生が豊かになる。子供の思考力が養われる。情操教育に寄与する。
こうした芸術の効用を力説しながら、自分でも首をかしげたくなる。

人生が豊かになる ?物事の判断力が身に着く ?私の周りにいる、誰よりも芸術に親しんでいるはずの人たちは、あてはまらない。
性格が歪んだ変人が少なくない。世間を斜に見て、いつもぶつぶつ言っている。

むしろ美術館なんかに行ったことが無い人の方が、よっぽど人生を楽しんでいるのでは。
しかし、その事もまた、芸術の効用である。
世の中には、少しは変人がいた方が良い。誰もが価値観を共有する社会は、効率がいいが、全体が間違った方向へ傾いた時に、歯止めがかからない。

アーティストたちは、ある意味では社会の中の他者である。そして、排他的な思考に警鐘を鳴らす存在でもある。
全体主義国家が、まず彼らを弾圧したのも、それゆえである。

今、世界に人種的、宗教的、性的な他者への不寛容が蔓延している。芸術という平和な手段に期待する事もある筈だ。

アルコール、除菌、マスクの仲間の勉強塾より

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