「持続的な幸せ」を作り出す3

〇ハウツーではなく、原理原則を踏まえた“試行錯誤”を

倫理観は時代や状況によってどんどん変わっていくので、「このルールさえ守ればOK」というのは問題です。「社会にとって良いことは何ですか?」という問題を、真剣に考え続けることが必要になってくる
テクノロジーが人の生活・体験や身体、そして精神に至るまで、大きな影響を与えている以上、開発・提供する側の企業には大きな責任がある。ユーザーの幸せは一切どうでもいいと考え、とにかく広告収入の増加だけを追い求めるのは、それが及ぼす影響に責任を負っていないので、倫理的ではない。
我々人間は万能ではないし、あらゆる事態を想定することはできない。何か問題が起きてから「そんなこと想定できたよね」と糾弾ばかりするのは卑怯である。
たいていの理論は後付けなので、結果としてリスクを想定しきれないこともある。そうした失敗を一切許さないと、何も新しい事ができなくなってしまう。
失敗を許さないのも間違っていて、倫理的ではない。
結局、「人を幸せにしているのかどうか」をあらゆるテクノロジー開発者が意識しなければいけない。

〇倫理の倫理の問題に一般解はないので、「幸福」を目印に、状況に応じてその都度判断しなければならない。
結局、試行錯誤していくための投資をすることが大切です。これは、企業の組織マネジメントにおいても同様です。

〇幸せな組織の普遍的な4つの特徴「FINE」
つながりに格差や孤立がない(フラット)flat
短い会話の頻度が高い(インプロバイズド)improvised
会話中の身体運動(ノンバーバル)non-verbal
発言権の平等性(イコール)equal
これをハウツー的に実践していくのは本質ではない。これはHEROになるための条件であることを、しっかり理解することが大切だ。
「あそこがやっているからうちも」とハウツーだけを真似しても、意味がない。

たとえば、最近注目されている「1on1」は間違った方向に人を導く恐れのある施策です。上司と部下が話す体験自体は、別に悪いことではない。だけど、それだけでコミュニケーションしたつもりになると、不幸で生産的ではない組織になることをデータが示している。
むしろ、組織図上で横や斜めの人と会話があるかが幸せにも生産性にも強い影響を与える。そういうことが、もうデータに出ている。
その意味で、1on1はそれだけでは不完全な仕組みであり、もっと大事なことがあり、他の施策と組み合わせなければいけない。
そして、リモートワークになるとより一層、これまでのやり方ではFINEを実現しづらくなる。だからこそ、もっと意識的に、試行錯誤に時間や労力を投資していかなければいけない。

もちろん、ウェブ会議の時のファシリテーション方法などで、コツと呼べるようなものはたくさんある。でも、大事なのはやり方そのものではなくて、やり方を変えること。
そのために他のことを多少犠牲にしてでも、まず試行錯誤の優先度を上げることが必要だ
「変えられることと、変えられないことを区別する」のと同じで、原理原則はあるけれど、企業によって事業も組織も違うので、結局はやってみないと分からないということになる。
変わらない部分を当てはめるだけでは、うまくいかない。やってみて、どんどん新しいやり方を作っていく。

ハピネスプラネット社はまだ、10人くらいの会社ですが、毎日1時間朝会をやっていて、最初の20分くらいはブレイクアウトセッションで、3人1組で雑談会をしている。
そのやり方を、結構いろいろ工夫している。本当に雑談だけのときもある、先週あったことや、やったことを報告してもらったり、皆さんに助けてほしいことを言ってもらうこともある。
HEROになるためにFINEが必要であることは普遍的ですが、実現方法は会社ごとの制約に応じて変わってくるので、その制約の中でいろいろと工夫して見出していくことが大切だ。

〇「幸福の可視化」が資本主義システムを変容させる
幸せのかたちが20世紀型から21世紀型へと大きく変わってきている中で、我々が17年間研究してきた知見をもとに、21世紀にふさわしい、データに基づいた組織経営のかたちを広めていこうと考えている。人々がHEROになれるようにマネージするためのインフラとして、身体運動から幸福度を計測し、「今日はこんなことに注意を向けるのはどうか」といったレコメンドやチーム内での「プチ報・連・相」などを行ってくれるスマートフォンアプリ『Happiness Planet』も開発した。
アプリはありがたいことにローンチから8ヶ月ほどで、すでに10社以上に、大規模に活用していただいている。
会社の立ち上げを決めたのはコロナ禍になる前だったが、パンデミックによって一層「予測不能」な時代になりつつある中で、社会全体の仕組みを見直す必要性をみんなが認識しはじめたことが、後押しとなっている。

〇日立製作所の一部門ではなく「新会社」
日立の「出島」として、大企業でもスタートアップでもない第三の道を作ろう、というコンセプトで設立した。労務・財務から研究開発、そして採用から営業・マーケティングまで、小さいながらにすべてのファンクションを備えている。営業チャネルや資源、信用といった大企業の良さは活かしつつ、機動力やアジャイルさといったスタートアップの良さも発揮できる、言わば“いいとこどり”の形態を取ろうと。
こうした第三の道が成功すれば、日本にとっても最初の突破口となると考えている。日立の研究所は事業化を目的としているところなので、これまでも事業組織を立ち上げる試みは何度かしてきた。
でも、あまりうまくいかなくて。大企業ゆえの良さもよく分かっているのですが、逆に難しい点も分かってきた。
ですから、大企業の一部分ではなく、出島方式にしないとスピードもコミット度も担保できないなと思い、腹をくくった。
新しい事業が成功するには、メンバーが運命共同体であるという意識を持ち、リーダーのコミットも重要だ。この出島方式によって、実現できる手応えを感じている。

〇ハピネスプラネットの活動を通じて実現したい未来像事業をさらに成長させていき、より多くの皆様のお役に立てるようにしていくのはもちろん将来的には、メンバーの幸福への投資が生む財務的なリターンを、もっと可視化していきたい。
人の試行錯誤や学び、成長が企業の利益の源泉になっているのは間違いないが、定量的な効果が分かりづらいため、そこに投資する意思決定が取りづらいのが現状だ。
CHROとCFOが別々にいることからも分かるように、人の幸せと財務が、分離してしまっている。幸福への投資が生み出す財務的なリターンを評価する、何らかのアナリティクス手法を開発したい。そうして幸福を財務視点で定量化していくことで、株主や投資家もそこに眼が向くようになり、個社を超えて資本主義システム全体に良い影響が与えられる。今はそうした理想を現実化していく入り口に立っているので、少しずつ前進させていきたい。

アルコール、除菌、マスクの仲間の経営塾より