『有名企業からの脱出』

冨山和彦

人間は元来、生き方にストーリーを求める生き物ですが、時としてそのストーリーが古くなって現実にそぐわなくなることがある。
特に最近は、第2次産業で築かれた成功ストーリー、幸福ストーリーが崩壊したと感じています。
規模が大きければ大きいほど良いという価値観、工場を中心に作られた出世と昇給のシステム、夫を工場に貼り付けておくために作られた
「専業主婦」という役割分担は、もう終了したのではないかと思っています。
所詮、会社などというのは、アメリカであってすら、でかくて古くなったら、イノベーティブではなくなるのです。
常にその時代のイノベーションを起こしてきたのは、新しい若い会社なのです。これは日本も同じ。明治維新の時から、ずっとそうでした。

だから、ソニーやホンダが革新力を失ったことが問題なのではなくて、「どうして第二、第三のソニーやホンダが出てこないのか」ということこそが、
問題の本質なのです。日本の経済ジャーナリズムの論点は、完全にずれているのです
本当に優秀な学生は、もう、古くて大きな会社に入って来ない

大切なことは「時計の針」を3つ持っておくことです。短針と長針と秒針です。秒針の世界での発想だけで未来の成長の芽まで摘んでしまうと、
10年後、20年後に後悔する。そういうことが起こりうる。
だから、3つの時間軸が重要になるのです

国民全員が共感できるビジョンなんか現代社会にあるはずない
何が変わったのか。私は大きくわけると結局は3つしかないと思っています。
私有財産権の確立、貨幣経済の発達、そして科学技術のイノベーションです。今、前ふたつは世界中で成熟期に入ろうとしています。
そうなれば、後の変数は科学技術しかない。世界はそのことに、すでに気づいているのです
実は日本人の90%は農民であり、町民の出だった。むしろ武士道なんて、まったく関係がない世界に生きていたのです。
言ってみれば、もっといい加減で、もっと大らかで、もっと自分勝手に生きていた。

でも、世界的に評価された文化はここから生まれたことを忘れてはなりません。
浮世絵しかり、歌舞伎しかり人生の選択肢が減っていく時、
自分の選んだ仕事がたまたま自分の成功や幸福の尺度と一致していればいいですが、一致していなかったとすれば、けっこう生きづらいでしょう
何が自分はしたいのか(will)。得意なこと、できることは何か(can)。かつ社会が自分に期待していることとは何か(shall)

自分の人生を成功させる確率が一番高いのは、自分で成功の尺度を決めることなのです。自分の尺度で成功を測る。自己満足でいいのです。
同期が頭取になろうが、勲章をもらおうが、ランボルギーニに乗ろうが、別荘を持とうが関係ない。そう言える自分になるのです
私も少々歳を取ってきたのでよくわかるのですが、今さら趣味で何をやっても、決して仕事で自分が到達しているレベルには届きません。
世界的に最も高いレベルで最もエキサイティングなゲームをできる、すなわち最も人生を楽しめるのは仕事なのです

アルコール、除菌、マスクの仲間のための勉強塾より